研究フォーカス

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08 イデオロギー-現代社会においてイデオロギーを問い直す意義

logo_focus 1つの研究対象に複数局面からアプローチする、

人文科学の分析に社会科学的方法論を使う等々―

人間社会学研究科は、学問領域の既存の境界を越えて

新しい知をつくることに意欲的な場です。

 

08 イデオロギー

現代社会においてイデオロギーを問い直す意義

イデオロギーの定義は、時代および社会情勢に応じて変化し、論者の立場によっても一様ではない。人文・社会科学の研究において、現代社会におけるイデオロギーを問い直す意義について、あらためて考えてみたい。言語文化学専攻、人間科学専攻、社会福祉学専攻の教員に、それぞれの立場から、自らの研究と「イデオロギー」について語ってもらいました。

批判的ディスコース分析から
みえてくるもの

 私の専門はディスコース分析ですが、現在は、そのなかでも、批判的ディスコース分析に主軸を置いています。これは、社会状況に根ざしたテクスト分析を行う分野で、ディスコースがどのようにイデオロギーを表象し現実を構築しているのかを考察するものです。メディアの言語表現にさりげなく埋め込まれているイデオロギーを、批判的ディスコース分析で明らかにすることは、社会における偏見や差別を浮き彫りにすることにもつながります。最近、「らしさ」という概念をキーワードに、社会の種々の属性に関する特徴が言語行為においてどのように表象されているかを考察する論文集を仲間と出版しました。イデオロギーのひとつといえる「らしさ」の社会における意味について言語学的に明らかにすることを目指したものです。言語学の手法は、このように、私たちの現実の一側面を研究できるものですが、そのなかでも批判的ディスコース分析は、社会と対峙する言語研究として、私にとって非常に奥深い領域です。

高木佐知子 教授

TAKAGI Sachiko
■言語文化学専攻
談話研究、社会言語学
最近の主要著作:
『ディスコースにおける「らしさ」の表象』(編著)(大阪公立大学共同出版会 2013年)。
指導可能なテーマ例:
報道記事の批判的ディスコース分析、雑誌記事におけるイデオロギーの研究、会話における含意の研究。


日常に浸透して自明視された
意識のあり方を問う

 イデオロギーというと、とりわけ冷戦終結後、日常的には特定の政治思想や価値観を意味することが多くなりました。「私のイデオロギーは××だ」というような言い回しに直面したとき、ふつう個人の特別の信条を表現していると考えられるのでしょう。たしかに、そうした意味もイデオロギーという観念は含んでいますが、学問的にイデオロギーという場合は、まったく逆に、「日常に浸透して自明視された意識のあり方」を指す場合が多いです。つまり、特別どころか、「言うまでもなく自然」であるとか「自明」であると思われている意識形態のことをイデオロギーというのです。たとえば女性学で用いられる「ジェンダー」という概念も、一種のイデオロギー分析のツールと言えます。ジェンダーとは、男とは強いもの、女とは弱いものというような、性別にまとわりつく一般的観念が、いかに歴史や社会によって左右され、人為的で特別なものであるかを示すための概念であるからです。いや、「自明」のものを疑うことを使命とする点では、そもそも人文社会科学そのものが何らかの形でイデオロギーの分析や批判に関わっていると言うべきかもしれないです。そしてその矛先は自分自身にも、ときに鋭く突きつけられるのです。

酒井隆史 教授

SAKAI Takashi
■人間科学専攻
社会思想、社会学
最近の主要著作:
『通天閣:新・日本資本主義発達史』(青土社 2011年)。
指導可能なテーマ例:
都市論、視聴覚文化論(音楽、映画、漫画)、現代思想。


ポストモダン思想から
ソーシャルワーク理論と実践を問い直す

 20世紀末、ソーシャルワーク研究においても、ポストモダン思想の影響を受けた「ポストモダン・クリティカル・ソーシャルワーク」と呼ばれるソーシャルワーク理論が勃興しました。もともとソーシャルワークには、その初期より、ワーカーが働きかける領域の中心をめぐって、「原因か機能か」あるいは「社会か個人か」という議論がありました。ソーシャルワークの役割は、クライエントの生きづらさを生み出した社会の改革なのか、それともクライエントに直接働きかけ、彼ら/彼女らが周囲の状況を受け入れて変化するのを手助けすることなのか、という2つの立場が拮抗してきたのです。私が関心を寄せてきた「ポストモダン・クリティカル・ソーシャルワーク」は、ソーシャルワーク理論のラディカルな伝統──ソーシャルワークの役割とは、社会の変容を促すことだという考え──も引き受けながら、同時にフェミニズムの影響のもと、抑圧された個人や集団の解放をめざすものです。

児島亜紀子 教授

KOJIMA Akiko
■社会福祉学専攻
福祉哲学、社会福祉原論
最近の主要著作:
『社会福祉の理論と運営:社会福祉とは何か』(共著)(筒井書房 2012年)。 指導可能なテーマ例:
ソーシャルワークにおける価値と倫理、ポストモダン・クリティカルソーシャルワークにおけるパワー概念の研究、レヴィナス思想のソーシャルワークへの援用と展開。


※「障害」「障がい」の表記法については、社会福祉学においても様々な見解があり、本サイトではあえて表記の統一はしていません。

 

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