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椿亭文庫

椿亭文庫について

椿亭文庫は、大阪女子大学名誉教授土田衞氏の寄贈にかかる蔵書である。府立三大学が統合して現在の大阪府立大学が発足する以前に、統合母体の一つである大阪女子大学へ二度にわたって寄贈された。第一回は書籍等を、第二回は一枚刷の番付類を寄贈され、現在は大阪府立大学学術情報センター図書館に収められ、上方文化研究センターが管理している。土田名誉教授は、蔵書の寄贈という貢献により、2003年に大阪府知事から顕彰された。

土田名誉教授は日本の近世文学、とりわけ近世演劇を専門とされ、歌舞伎研究の泰斗である。椿亭文庫には、歌舞伎、浄瑠璃等の近世演劇に関わる資料が多数収蔵されている。歌舞伎資料の役者評判記、台帳、絵入根本、浄瑠璃資料の正本(丸本)をはじめとする書籍は四百数十点、一枚刷の番付や絵づくしは三千七百点あまりにのぼる。いずれも近世演劇研究の基礎資料として重要なものである。

できるだけ多くの方に利用していただきたいという土田名誉教授のご意志もあり、椿亭文庫はあえて貴重書にはせず、多数を同時に閲覧できるよう便を図っている。なお、大阪女子大学上方文化研究センター研究年報第6号別冊として、書籍については「椿亭文庫目録」を刊行している。 一枚刷は整理中であるが、寄贈に先立ち立命館大学アートリサーチセンターにおいてデジタル・アーカイブ化されており、インターネットを通じて自由に閲覧できるようになっている。

 

椿亭文庫 蔵書目録[PDF]
椿亭文庫 歌舞伎番付目録[PDF]

 

 

椿亭文庫について書かれた土田名誉教授の文章を次に掲げておく。

 

椿亭文庫のことども  土田 衞

椿亭文庫の由来を聞かれることがある。拙宅を訪ねていただいた方はすぐにご理解をいただけると思うが、我が家は至る所に椿が植えられている。夫婦共に椿が好きだからである。別に謂われのあるような椿ではなく、ホームセンターで買った苗木や、大島に旅したときにおみやげに買ったものなどが、今や一人前になっただけのことである。そこでイチビッて亭号を「椿亭」とすることにした。因みに、庵号は「撫松庵」、雅号は「椿亭老人」である。ただ一つだけ自慢できる椿がある。尾藤二洲の門下で、伊予小松藩の儒者である近藤篤山が愛した椿の子孫が一本、雑木の椿の中に鎮座ましましている。

私は蒐集家ではなく、単なる研究者である。従って私の蔵書はコレクターの目から見れば雑な、締まりのないものであろう。研究に必要か、将来必要になるかもしれない本を、見つけた機会に買っていたら、いつの間にか集まっていただけのことである。財布との相談も大事なことであった。ただ有り難いことに、私が本を買いはじめた頃はまだ値段は安かった。浄瑠璃丸本は、四百円以下は目に入ったら買うという心のルールを持っていたことを思い出す。丸本は今必要ではないものも、いつか必要になる可能性が大きいこと、そのころ写真に撮ると一冊四百円かかるということがその理由である。コピーというものはまだなかった。百冊あまりの丸本はすべてそのころのものである。

私の身辺整理の手始めに、架蔵の和本を、お世話になった大阪女子大学に寄贈しようと考え、段ボールに詰めて送りはじめたのが一昨年の秋からである。大学では早速の目録作りに精を出していただき、一年語には目録もほぼできあがって、その刊行を待つばかりとなった。面倒な仕事を手際よく進められた図書館と国文学研究室の皆さんに、小頃から御礼を申し上げる。架蔵していた本が公開され、少しでも約にたつことができたら、これほど嬉しいことはない。

〔『大阪女子大学上方文化研究センター研究年報』第4号(2003年3月)より抄録〕