スクールソーシャルワーク(SSW)とは
1. スクールソーシャルワーク(SSW)
~スクールソーシャルワークの背景~
学校では、子どもが抱える問題が複雑・多様化し、不登校の増加や少年非行の低年齢化といった現象が起こっています。こうした背景には家庭の要因が影響し ており、虐待や育児放棄(ネグレクト)、家庭的な困窮など深刻な問題を抱える保護者や子どもたちが存在します。子どもたちが置かれている様々な環境に着目 して働きかけることができる人材や、学校内あるいは学校の枠を超えて、関係機関等との連携をより一層強化し、課題に取り組むためにコーディネーター的な存 在が、教育現場において求められており、その担い手として、ソーシャルワーク(*)の専門性を基盤に活動を行う「スクールソーシャルワーカー」が、期待されはじめています。
(*) ソーシャルワークとは・・・ソーシャルワーク専門職は、人間の福利(ウェルビーイング)の増進を目指して、社会の変革を進め、人間関係における問題 解決を図り、人びとのエンパワーメントと解放を促すことです。ソーシャルワークは、人間の行動と社会システムに関する理論を利用して、人びとがその環境と 相互に影響し合う接点に介入することを目的としています。人権と社会正義の原理は、ソーシャルワークの拠り所とする基盤です。(国際ソーシャルワーカー連 盟(IFSW)のソーシャルワークの定義)
~スクールソーシャルワークとは(文部科学省の定義)~
「問題を抱えた児童生徒に対し、当該児童生徒が置かれた環境へ働き掛けたり、関係機関等とのネットワークを活用したりするなど、多様な支援方法を用いて、課題解決への対応を図っていくこと」
出典:「スクールソーシャルワーカー活用事業」
文部科学省(2008)
2. 子どもをめぐる状況
~子どもをめぐる状況~
近年、急速な少子化の進行、児童虐待問題の深刻化、少年事件に関する問題など児童福祉領域の問題は、非常にクローズアップされています。問題行動として、学校内における暴力行為が近年著しく増加しています。非行行為に関連する入所施設である児童自立支援施設、少年院における調査から確認すると、厚生労働省が行った1999年全国児童自立支援施設における調査では、対象者数1405人、回収率87.7%で、何らかの虐待を受けている入所児 童が約6割あり、2000年の法務総合研究所で行った「少年院在院者に対する被害経験のアンケート」においては、全体の約70%が身体的虐待あるいは性的 虐待の被虐待経験が報告されています。いずれにせよ、児童虐待がかなり高い割合で子どもの非行に関連しているといえます。児童虐待の件数(図1)は増加を続けており、法律制定時から比較すると、平成20年で2.5倍になっています。そして大阪府は全国1位となっています
不登校(図2)については、一見減少あるいは横ばいにも見えますが、全校生徒数との割合でみると平成5年の0.55から10年後の平成15年において1.15と発生率が倍増しています。
平成19年度就学援助率は、全国平均の13.74%、大阪市では33.8%、大阪府24.67%(平成20年度は27.96%:毎日新聞)で、都道府県のなかで大阪府は支給率1位です。どの数値を取ってみても大阪の厳しさが伺えます。
子どもたちの問題に見える行動は、さまざまな要因による家庭的な背景があり、その状況にある子どもたちの叫びとして繰り返されているといっても過言ではないでしょう。
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出所:『スクールソーシャルワークの開発』(近刊)大阪公立大学共同出版会
図2「不登校児童生徒の推移」出所:文部科学省(吹き出しは山野則子追加)
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3.その他の研究者による定義
~その他の研究者による定義 (敬称略・出典の年代順)~
岩崎 久志(2001) | 当該の子ども本人への直接的な援助だけではなく、学校、家庭、地域などの子どもの環境にも働きかけ、相互の調整や連携を図りつつ問題解決に取り組む。 |
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門田 光司(2002) | 児童生徒の等しく教育を受ける権利や機会を保障していくことを目的としたソーシャルワークの専門的援助技術である。 |
大崎 広行(2005) | 学校現場において、「ソーシャルワークの知識・技術」以外に「心理臨床の知識・技術」と「教育臨床の知識・技術」を必要とする。 |
山野 則子(2007) | 子どもの問題を病理の視点でなく、また生活上の問題行動という視点ではなく、人と環境つまり社会との関係において問題をとらえていく。その際、スクール ソーシャルワーカーは、子ども、家族だけに限らず、学校や他の専門職との活動を通じて、環境の応答性を高めていけるように働きかける。 |
大塚 美和子(2008) | 子どもの人格を尊重し生活環境を整えるコーディネーターであり、学校と家庭のパートナーシップ構築の専門家である。 |
鈴木 庸裕(2008) | 子ども個人や家族の病理や多問題に焦点を当てる援助モデルとは異なり、個を取り巻く環境(疎外要因)の変容・改変に対応する。 |
山下 英三郎(2008) | 子どもたちを取り巻く状況を概観した上で、人間関係の調整を通して彼(彼女)らのウェルビィングを実現するための支援者。 |
出典:
・岩崎久志(2001)『教育臨床への学校ソーシャルワーク導入に関する研究』風間書房
・門田光司(2002)『学校ソーシャルワーク入門』中央法規
・大崎広行(2005)「スクールカウンセリングの限界を超えて~日本における学校ソーシャルワーク実践の展望~」『宮城学院女子大学発達科学研究』5,53-62
・大塚美和子(2008)『学級崩壊とスクールソーシャルワーク‐親と教師への調査に基づく実践モデル‐』相川書房
・鈴木庸裕(2008)「教師のための学校ソーシャルワーク実践論:校内委員会や校外協働の進め方をもとに」『福島大学総合教育研究センター紀要』4,9-16
・山野則子(2007)「子ども家庭相談体制におけるスクールソーシャルワーク」山野則子・峯本耕治(編著)『スクールソーシャルワークの可能性-学校と福祉の協働・大阪からの発信-』ミネルヴァ書房,2-17
・山下英三郎(2008)「子どもたちの現状とスクールソーシャルワーク」山下英三郎・内田宏明・半羽利美佳(編著)『スクールソーシャルワーク論‐歴史・理論・実践‐』学苑社,7-22