研究科の魅力を語る

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VOICE 研究科の魅力 教員からのメッセージ for 2016

田中宗博

言語文化学専攻 教授

【専攻分野】説話と説話集、伝承文学の研究。中古中世の説話集を対象とする研究。説話と仏教との関わり、説話と和歌・歌論についての研究

専門分野は、説話・伝承文学の研究。時代で言うと、平安末院政期から鎌倉期を対象に、説話集と周辺資料をこつこつ読んでいます。これまでの仕事の柱は二つあって、一つは鴨長明『発心集』を中心に、中世仏教説話の世界を考えること。もう一つは、藤原忠実の言談録『富家語』『中外抄』から、『古事談』や『続古事談』といった説話集への展開を追いつつ、貴族説話の諸相を考えるというものです。
研究の拠点としては、説話文学会・仏教文学会・中世文学会等の全国規模の学会は当然として、神戸説話研究会・『俊頼髄脳』研究会といった、小規模だけれども共同研究に適した同学の集まりも大切です。その成果の一端は、昨年『論集中世・近世説話と説話集』(神戸説話研究会編/和泉書院)として刊行されました。
学内では、何人かの先生方と「説話文学美術研究所」を立ち上げ、美術と文学にあい渉る学際的研究も進めています。その他、昔話や各地の民話・都市伝説や怪談も興味の対象で、院生・学生の研究テーマとしては、広く説話・伝承に関わるものが選択可能です。付言すると、沖縄の歴史や文化を知ることも大好きで、その方面での勉強も潜かに続けています。

伊井直比呂

人間科学専攻 准教授

【専攻分野】人権としての教育論、UNESCO 国際教育(国際理解教育)、UNESCO ASPnet、社会科教育、憲法政策論及び教育政策ほか

「持続可能な開発のための教育(ESD)」など、ユネスコ国際教育の学校教育への援用や学習権の今日的有効性などを研究しています。例えば、グローバル人材って何でしょう?世界と戦って勝てる人材ってどんな人でしょう?子どもたちにそれを強いる教育は本当に「教育」なのでしょうか?それに参加したくない人はどうしたらよいのでしょう?それは教育の失敗なのでしょうか?ユネスコはむしろEducation for All を大切にし、勝負の教育ではなく、自分の成長と意味を実感でき、「持続可能な未来」を共に創る(共創的)教育を進めています。そしてこのユネスコの精神を実践する学校がUNESCO Associated Schools Project network(ASPnet:ユネスコスクール)です。
現在、加盟校は世界186カ国で9800校(日本には2014年10月現在806校)あります。2014年11月には、UNESCO・文部科学省主催で世界32カ国のASPnet校約160名の高校生によるESDをテーマとしたユネスコ世界大会が開催されました(岡山市)。大阪府立大学は、大阪と岡山の500名以上の高校生による運営と共創的ディスカッションを支援するため、3年間にわたり、理論的・教育実践的に支援してきました。もちろん、学部生・大学院生も、学部・研究科での多様な学びと研究を通して、高校生を支えてくれました。

山中京子

社会福祉学専攻 教授

【専攻分野】社会福祉方法論/医療福祉。ソーシャルワークにおける援助専門職による援助方法研究/連携研究/HIV感染者への支援

人は病気にかかると身体のつらさや苦しさを経験しますが、その影響は身体的側面にとどまらず、仕事や学業、家庭や地域での生活、そこにある家族・友人・周 囲の人との人間関係という社会的側面やその人本人の気持ち、意欲、自己イメージなどの心理的側面へも大きな影響を及ぼします。この複合的な経験をアー サー・クラインマンは「病い」の経験と呼んでいます。自分が長く取り組んでいる研究テーマはHIV感染症をめぐる人々の経験です。身体疾患としての特徴 (致死的疾患から現在は慢性疾患へ)があり、またさまざまな理由から社会的にスティグマを付与されたHIV感染症にかかった人々の「病い」の経験を当事者 であるHIV陽性者への面接調査や全国アンケート調査で明らかにしようとしてきました。
また、その当事者の目から見た周囲からの支援、特にソー シャルワーカーやカウンセラーなどの心理社会的支援の専門職からの支援を分析し、専門職が拠り所としている支援観や支援理論との重なりやずれを明らかに し、当事者にとって意味のある支援を検討してきました。さらに、その研究の過程で出会った多職種による連携・協働も現在の自分の大きな研究関心になってい ます。複合的な「病い」の経験のまっただ中にある人にとって、その各側面に専門性や強みをもつ多様な支援者が互いに協力しあいながら支援を統合することが 最大の利益につながると考えますが、実際には多職種による連携・協働には課題や難しさも多くあります。その課題や難しさをどうしたら解決できるのかをこの 頃考えています。

宮本貴朗

現代システム科学専攻 教授

【専攻分野】情報セキュリティ/情報ネットワーク/情報システム工学情報システムの設計・開発・運用に関する研究

知識情報システム学分野では、どういう研究ができますか?
知識情報システム学分野は、高度情報化社会の基礎となる情報に関連する専門分野の知識と技能を学ぶとともに、知能情報学、経営情報学、教育情報学、ヘルス ケア情報学などの学際的情報学分野における課題解決への取り組みを通して、知識科学および情報システム工学と社会科学などの他分野との融合による新たな価 値を創造するための研究を行っています。

先生ご自身は、学生と学外に出かけることはありますか?
学会発表や研究会への参加、他研究組織との研究のためのミーティングにおいては、学外へ出かけることがあります。研究そのものは研究室での基礎実験とその 検証が中心になり、基本的に実証実験のベースは学内の情報環境にあること、ネットワークに接続されていればどこからでも学内の研究環境にアクセスできるこ ともあり、学内や学外の区別はあまり考える必要がなく、この分野ではインターネットさえあればどこででも研究はできると思っています。

現代システム科学専攻と工学研究科との違いは?
工学研究科では、自然科学を基礎として社会に必要な生産力を生み出す科学技術の進展を目指した研究を行うことで、高度な技術者・研究者の養成を目標として います。現代システム科学専攻においても同じく自然科学を基にしますが、社会科学や人間科学などの他の分野との融合をより重視した学際的な研究を行いま す。知識情報システム学分野を例にすると、価値観の変化や多様化する現代社会が抱えるさまざまな問題に対応し、学際的情報学分野の研究・開発を通じて、知 識科学、情報システム工学などの情報通信技術がもたらす社会への影響を深く理解することを重要視しています。社会科学や人間科学などの研究者と協働して教 育・研究できることが現代システム科学専攻の特徴だと思っています。

現代システム科学専攻ではどういう学生に来てほしいですか?
自分で考えて自分で行動することができる学生に来て欲しいと思います。


西尾純二

言語文化学専攻 教授

【専攻分野】日本語学/社会言語学。待遇表現の言語行動論的研究/日本語の社会的機能に関する研究/日本語方言の動態/記述研究

専門は日本語の社会言語学です。その中でも、日本語の多様性を研究対象としています。ことばの多様性研究には、色々な研究のアプローチがあります。ことば の世代差からは、言語変化の仕組みが見えてきます。ことばの性差からは、ことばとジェンダーの関係が示唆されます。ことばそのものだけはなく、言語行動の 多様性に着目するとまた興味深い世界が広がっています。日本語学習者や若者、都会人や農村部の人々、社会的マイノリティ。そういった人達の言語行動にそれ ぞれの特徴があるということは、何を意味するのでしょうか?その特徴からは、日本語学習やさまざまな社会環境とコミュニケーションとの関わりが見えてきそ うです。
このような言語行動を含めたことばの多様性のうち、個人的なものではなく、何らかの言語共同体に共有されているものを、客観的に発見して いくことを目指しています。日本語の標準規範的なものでなくても、何らかの言語共同体が形成されているということは、そこに人々の多様な営みを反映する、 「社会」があるということです。さらに、そこで用いられているのは、多様な「それぞれの日本語」なのです。

大平桂一

人間科学専攻 教授

【専攻分野】中国文化史/中国文学。中国人の夢と夢理論/明末清初の文学(王朝交代期の詩・散文・小説)

明末清初の詩、散文そして小説を中心に研究しています。特に好きなのは、明代の古文辞派の詩学の系譜に属する詩人でありながら、超絶技巧的な典故の運用と 複雑怪奇な詩律学の確立に新境地を見出した清代の初めの王漁洋という詩人です。彼のデビュー当時の状況、その詩の特徴、後世の評価など一貫して王漁洋を研 究してきました。
小説の分野では『西遊記』のパロディである『西遊補』の注釈をずっと書いてきました。『西遊補』は孫悟空が青魚精という妖怪の術 中にはまり、壮大な罠に陥り、古人世界、未来世界などいくつかの世界を彷徨するのですが、世界をつなぐ出入り口は鏡(銅鏡・水面)という、極めて近代的な 小説で、短いのですが原作を凌ぐ出来栄えです。
もう一つのテーマは「中国人の夢」です。とくに明末に出版された夢占いの百科全書『夢林玄解』は、 夢の原理論、夢に関する言説の集成、四千以上に上る夢占いの項目などから成る天下の奇書で、どうにも取っ掛かりがなく、長い間苦しんだあげく、最近ようや く「夢林玄解の成立」という論文を一本書きました。内閣文庫で私費20万円を費やして撮影してもらってから20年が経っていました。学問の道は一見非合理 な過程をたどりますが、この論文はその典型と言えるでしょう。
私が論文の大量生産が叫ばれる今の時代に乗り遅れていることは否定しませんが、中国のことを更に一歩進んで考察してみたい人、共にゆっくりと学んでみませんか。

児島亜紀子

社会福祉学専攻 教授

【専攻分野】福祉哲学。社会福祉援助における哲学的課題の研究/社会福祉援助及び政策における価値規範に関する研究

私は社会福祉学のなかでも、原理論や福祉哲学と呼ばれる領域を専門にしています。原理論とは「社会福祉とは何か」を問ういわばそもそも論を指しますが、私 は「社会福祉とはどのような機能を持つ政策・援助活動(実践)なのか」という機能論に関心があるのではなく、「社会福祉実践に求められる思想(人間観や社 会認識)とはどのようなものであるべきか」という規範的な問題に関心があります。近時、災害研究を始めとしたさまざまな領域でヴァルネラビリティ (vulnerability)という言葉が使われています。これはもともと傷つきやすさや攻撃されやすさといった意味を持つ言葉ですが、この概念が社会 福祉の政策枠組に用いられている英国では、弱く、傷つきやすいと見なされた人びとはリスク管理の対象となり、その結果彼ら・彼女らの自己決定が妨げられ、 専門職による過度な保護や干渉が行われていると指摘されています。一方わが国でも、「生活保護バッシング」に見られるような、困難のもとにある人を攻撃す る言説が広がっています。行きすぎた保護もあからさまな攻撃も、排除の様態のひとつにほかなりません。このような時代だからこそ、 vulnerabilityをはじめとする基礎概念の吟味や社会福祉の人間観の探求を行う原理論(および福祉哲学)を、より深く掘り下げていく必要がある と考えています。

大塚耕司

現代システム科学専攻 教授

【専攻分野】閉鎖性海域の環境修復/海産バイオマスを利用した物質循環システムの構築/海洋深層水の多目的利用

環境システム学分野では、どういう研究ができますか?
環境システム学分野は、領域横断型である現代システム科学専攻の中でも最も幅広い研究分野にまたがっており、環境学コースでは、人と自然とのつながり(人 が自然から受ける影響、人が自然へ及ぼす影響など)に重点を置いた研究を、社会システム論コースでは、人と人とのつながり(組織や社会制度、文化や思想、 社会問題など)に重点を置いた研究を、認知行動論コースでは、人の心と環境とのつながり(人が環境からの情報を処理する仕組み、心の発達など)に重点を置 いた研究をそれぞれ行っています。

先生ご自身は、学生と学外に出かけることはありますか?
私の専門が海洋環境ですので、頻繁に海の現場に出かけています。私が考える理想の研究アプローチは、現場でのフィールドワーク、研究室での基礎実験、それ らのデータを基にしたモデル計算、の三位一体型研究アプローチです。どの部分も重要ですが、特に環境分野では、現場調査のない研究はリアリティに欠け、い わゆる机上の空論になってしまうことが多いので、フィールドワークは基本中の基本と位置付けています。

現代システム科学専攻と工学研究科との違いは?
工学研究科では、自然科学に根差した論理構成を基に研究が進められます。これに対し、現代システム科学専攻では、自然科学だけでなく、社会科学や人間科学 に根差した論理構成を基にした研究も加わります。例として、私の研究分野である大阪湾の環境と水産資源に関する研究を考えてみます。工学研究科では、流動 や水質・底質環境と生物分布との関係を調べ、水産資源の動態がどのように変化するかといった研究が行われます。現代システム科学専攻では、これに加え、各 地域での漁業の歴史や生活習慣の違い、海や魚食に関する価値観の相違なども視野に入れた調査研究が行われます。もちろん自然科学系の調査技術や数値計算技 術は工学研究科のほうが勝りますが、領域横断的に物事をとらえて解析することは現代システム科学専攻でなければできません。

現代システム科学専攻ではどういう学生に来てほしいですか?
自分の研究が世の中のお役に立つためには他の領域の人とどのように協働していけばよいのか、などを常に考え行動に移すことのできる学生。とにかく、体力!明るさ!根性!は必須です。


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