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2019年11月9日女性学講演会「女性と人権」第2回報告

2019年11月9日(土)、ドーンセンターで第23期女性学講演会第1部「女性と人権―ジェンダーの視点からの再考」第2回が開催されました。以下、簡単に報告いたします。

第一講演者の南野佳代京都女子大学教授の「司法とジェンダー」では、女性と司法との関わりが論じられました。アメリカ・カナダ・オーストラリア・イギリス・フランス・ドイツと比べると、日本では司法分野(法学部・司法試験・法曹人口など)への女性の参画が低いという事実があります。けれども司法に女性が参画することがなぜ重要なのでしょうか。

明治期に制定された刑法は女性を意思決定主体であるとはみなしていませんでした。日本の司法制度の問題は、この刑法が根本的にはアップデートされないまま今日をむかえているところにあると指摘されます。それが性暴力事件における加害者への不処罰、被害者への二次被害を生み出す原因の一つともなっています。こうした問題の背景について、南野教授はとくに、裁判官自身が法解釈以前の事実認定において、「女性はこういうもの/こうすべきもの」という「思い込み」(社会通念)を基準に女性の生き方を判定してしまうことを挙げられます。またそこには「アンコンシャス・バイアス」(無意識の偏見)が作用していることも指摘されます(たとえば、自己主張する男性は「やる気がある」、自己主張する女性は「生意気」と評されてしまうことなど)。

こうしたアンコンシャス・バイアスを是正するためには、個人においても制度においても「不断の自己反省」が必要となります。先ほど挙げた諸国の司法では、男女比を半分半分にするパリテやダイバーシティ、民族的・人種的人口構成比の反映を意識すること、あるいは裁判官に対してジェンダー研修を行うことなどが積極的に政策として行われています。なんのためにそうするのでしょうか。ジェンダー・バイアスは司法の「公平さ」に疑念を生じさせ、司法への信頼を毀損するからです。司法への信頼は「公平さ」、つまり「誰が法廷にたっても公平に扱われるという期待」が成立するところに育まれます。ジェンダー・バイアスを是正することは、司法自らの存立基盤のために必要なことなのです。はたして日本の司法はこのような認識をもち、積極的な取り組みが為されているのでしょうか?

 

つづいて第二講演者の三輪敦子ヒューライツ大阪所長が「トランスナショナルなフェミニズムとジェンダーの平等」を報告されました。まず、「トランスナショナル・フェミニズム」とは、国や地域や文化を越えてつながり、互いの経験から学び合うこと、それを通じてジェンダー平等への信念を高めること、そしてローカルなレベルでの活動を展開していくことだと説明がなされました。ローカル・ナショナル・トランスナショナルの3つのレベルがフェミニズムの展開にとって重要なのですが、本報告はそれを意識したものでした。

現在、とくに環境と女性問題に顕著なように、さまざまな市民運動の動向が世界の潮流を形づくっています。こうした世界の動きの一例として、近年、関与・参画グループと呼ばれるCivil7(C7)、Youth7(Y7)、Woman7(W7)が自分たちに関心のある課題をG7/G20に反映させるための提言を行っているという試みが紹介されました。三輪所長も参加された2018年カナダでのW7の様子が写真とともに紹介されました。フェミニストを名乗るカナダのトルドー首相がふらりと入ってこられて、W7での対談に積極的に関わってこられたことに大変驚かれたとのことです。W7、そしてC20から出された提言では、性と生殖、暴力、労働、平和・安全保障等々に多岐にわたるなか、無償のケアワークの問題が取り組むべき課題として取り上げられ、またアンコンシャス・バイアスの解消が挙げられていました。こうした潮流からみると、日本の状況は著しく多くの問題を抱えていることがみえてきます。講演は最後に、政治参加の問題、人権の根幹としての「健康」の問題、そして意識の変革の必要性を訴えて締めくくられました。

 

世界経済フォーラムによるジェンダーギャップ指数で日本が149国中110位(2018年)であることは、ご存じの方も多いでしょう。しかしその低い順位はいったい何を意味するのでしょうか。お二人の報告は、具体的な事例でもって日本がその順位にいる理由を知らしめてくれるものでした。この順位が示すことは、一言でいえば、ここ数十年の間で「世界で起こっている変化が日本では起こっていない」ということにつきます。

さまざまな要因が挙げられるなかで、お二人が共通して語られたのが「アンコンシャス・バイアス」(無意識の偏見)の存在です。それは司法にも政治にも社会にも、そしてわたしたちの意識にも深く根付いているものです。ジェンダー平等への道筋は、公平さという司法への信頼が基盤になければならないし、変革するための立法は、誰を議員として選ぶのかという政治の問題に関わってきます。人権に訴えなくてはならない女性をとりまく諸々の状況を変えていくためには、「意識の変革」「意識的な変革」を通じた、社会通念や文化規範の変革が必要だということになります。

 

講師のお二人には大変充実した刺激的な報告をしていただき、まことにありがとうございました。ご来場くださった方々は熱心に耳を傾けてくださり、また多くの質問をよせていただきました。一人ひとりにお礼を述べることは能いませんが、ご来場くださったみなさますべてに感謝申し上げます。

(コーデイネーター:内藤葉子)