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卒業生 柴崎友香さん『春の庭』第151回芥川賞 受賞 (2014.7.17)
総合科学部(現・人間社会学部)卒業生柴崎友香さん『春の庭』第151回芥川賞 受賞総合科学部(現・人間社会学部)卒業生、柴崎友香さんの『春の庭』(文學界6月号)が |
「第151回芥川龍之介賞のご受賞、まことにおめでとうございます。心よりお祝い申し上げます。
人間社会学部は、柴崎さんが在籍された総合科学部の文系と社会福祉学部、大阪女子大学人文社会学部とが統合して生まれました。私もその一員としてご受賞をほんとうに嬉しく誇らしく思います。
本学関係者の受賞は、第49回の河野多恵子さん、第94回の米谷(こめたに)ふみ子さんに続き、3人目となります。
先輩が活躍されることは、学部の学生にとっても嬉しく励みになることでしょう。
柴崎さんの今後ますますのご健筆とご活躍をお祈り申し上げます。」
吉田 敦彦 人間社会学部長 兼 人間社会学研究科長(受賞当時)
受賞作『春の庭』
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柴崎友香さんShibasaki Tomoka 1973年、大阪市生まれ。 大阪府立大学総合科学部では地理学を専攻。 写真部に所属し、梅田や心斎橋など街の風景を好んで撮影した。 卒業後、機械メーカー勤務を経て『きょうのできごと』で作家デビュー。
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インタビュー ※外部サイト |
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本学での蔵書 | ||
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受賞作品『春の庭』が掲載されている【「文學界」2014年6月号】は、本学の学術情報センター図書館でも所蔵しています。
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お祝いのメッセージ |
大形 徹
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柴崎さん芥川賞受賞おめでとうございます。もっと早くもらえると思っていました。 2005年、大阪府立大学総合科学部と大阪女子大学人文社会学部が合わさって、人間社会学部が生まれました。その最初のパンフレット(予算をもらえなかったので99%大形の手作り)の巻頭のページ「大学という風景 大学生という時間(上記pdf)」に人間社部の前身、大阪府立大学総合科学部卒業の柴崎友香さんを特集しました。このときは柴崎さん原作の『きょうのできごと(田中麗奈・妻夫木聡ほか)』が映画化されたばかりで、第23回織田作之助賞をもらう前でした。 インタビューのために、カップルばかりの映画館にひとりさびしく映画を見に行き、本を読み、柴崎さんの属していた写真部の後輩と連絡をとりました。このとき、大形の研究室で、地理学の福田珠己先生と対談していただきました。柴崎さんは当時、府大に在籍していらっしゃった藤井正先生と福田先生のもとで卒論文「写真による大阪の都市の風景のイメージに関する考察―大阪を例に」を制作されたため、そのあたりの話をしていただきました。 そのあと、私のカメラ(Nikon F3 フィルム用の一眼レフ)を柴崎さんに使っていただき、一緒に府大構内をめぐり、写真を撮っていただきました。(上記動画)私は別のカメラで写真を撮っている柴崎さんの姿を撮りました(笑)。写真の一部は2005年パンフレットの人間科学・言語文化・社会福祉の写真に使用しています。全写真は当時のホームページにアップしました。 モニュメントや目立つ建物は一切、撮らず、無造作にパチパチと撮っているようでしたが、写されたものは確かに府大の日常でした。たとえば、自転車置き場に自転車が乱雑におかれているところ、おせじにもきれいだとはいえない無人の教室の後ろの方の座席、窓は開け放しでブラインドはこわれかけています。ふつうなら誰も写真を撮ろうとは思いもしないような場所が、柴崎さんに切り取られ、四角い枠に収められると、にわかに陰影をもち、その存在を主張しはじめるのです。その写真家の目は、そのまま文章を書く小説家の目であると感じました。 2000年に日本道教学会を大阪府立大学で開催しました。そのとき「陰陽道と道教」というシンポジウムを企画し、『陰陽師』で著名な漫画家の岡野玲子さんにも講演していただき、一般の方たちも参加できるようにしました。そのとき、じつは柴崎さんも参加していたのです。柴崎さんの参加申し込みハガキは私の宝物です。 柴崎さんは当時、府大に在籍していた河野道房先生の研究室で、よく漫画を読んでいたそうです。(河野先生によれば美術の教員は漫画もまた研究対象であるとのこと)。『陰陽師』も河野先生のところで読んで、あとは全部自分で買ったとのこと。その河野先生に紹介され、シンポジウムに参加したとのことです。 インタビューで、「結構、マンガ読むんですか?」の問いに対して、 「マンガ大好き。…絵がもっとうまければマンガ家になったかもしれないし…(全員爆笑)」の返事。 ちょっと強引な無理矢理の結論ですが、マンガ家にならなかったから芥川賞がもらえた。おもしろいですね。 |
福田 珠己
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芥川賞受賞、おめでとうございます。「レッド、イエロー、オレンジ、オレンジ、ブルー」でデビューされて15年、『きょうのできごと』で単行本を刊行されて14年、そして、都市の風景と写真についての論文を書いて大阪府立大学を卒業されて17年。とうとうこの日がやってきました。本当にうれしく思います。 文学については素人の私ですが、柴崎さんの作品の中に感じられる視線の動き、視覚と身体感覚と時の流れとが合わさったような心地よい流れには、いつも魅了されます。それは、私自身が視覚的な側面を重視する地理学研究者だからでしょうか。それとも、地表面の襞を感じながら散歩することが大好きな人間だからでしょうか。カナダの地理学者、エドワード・レルフはこのように表現しています。 「人間的であるということは、意味のある場所で満たされた世界で生活することである。つまり人間的であるということは、自らの場所を持ち、また知るということである。」(『場所の現象学』) |
河上(小谷)幸子
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このたびの柴崎友香さんの芥川賞受賞に対し、心からのお祝いを申し上げます。今年、約10年ぶりにお目にかかる機会をもてた矢先の嬉しい受賞の知らせに、ただただ感慨深い思いです。 今回の受賞は、何気ない日常のなかに様々な人びとの物語を見出し、それを言葉にして伝える術を磨き続けてきた柴崎さんの地道な研鑽と実績が、高く評価された当然の結果だと思います。本当におめでとうございます。 大阪府大では、ゼミこそ異なりましたが、お互い人文地理学の研究室に所属していました。当時から、柴崎さんは人一倍、勉強家だったことを思い出します。専攻に関する学術的な領域に限らず、東洋美術史の先生の研究室にマンガを借りに行ったり、部活でやっていた写真を卒論でも取り上げたり、学生生活のあらゆる機会を勉強の場にする天才でした。大学を卒業し、職業も住んでいる場所にも共通点がなくなってしまった今でも、時折、互いの人生が交錯する喜びに恵まれるのは、この他ならぬ柴崎さんのおおらかな好奇心のおかげだと感謝しています。 現在、私は文化人類学を専門としています。様々な人びとの世界観を支えるいつもの身近な言葉や街角、ありふれた日常風景を描く手法を確立し新たな文学ジャンルを切り開いてきた柴崎さんの功績は、現地の人びとの視点から見える世界に関心を抱く私を含めたフィールドワーカーにとっても、大きな希望を与えるものです。これからの柴崎さんのますますのご活躍とご健康を心からお祈りしています。 |
府大と芥川賞 |
府大出身の芥川賞受賞は柴崎友香さんで3人目となります。先輩方の作品をぜひ手に取ってその文学の世界を楽しんでみてください。
1. 第49回受賞 | 河野多恵子 『蟹』 |
大阪府立市岡高等女学校(現大阪府立港高等学校) →大阪府女子専門学校(現大阪府立大学)経済科 |
2. 第94回受賞 | 米谷ふみ子 『過越しの祭』 |
大阪女子大学(現大阪府立大学)学芸学部国文学科 |
3. 第151回受賞 | 柴崎友香 『春の庭』 |
大阪府立大学総合科学部 |
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