実践者と学生の合同セミナー開催報告

category

2011.09.04 世界性の健康デー(WSHD)公開フォーラム  … 学校のなかの性的マイノリティ ー教育現場における排除と包摂ー

9月4日は、世界性の健康デー(World Sexual Health Day)です。今年のテーマ「若者の性の健康: 権利と責任のわかちあい」(Youth’s Sexual Health: Shared Rights and Responsibilities)にあわせ、「学校のなかの性的マイノリティ―教育現場における排除と包摂―」と題した公開フォーラムを企画しました。
おしゃれや恋愛に目覚める思春期は、一般にも、他者や帰属する集団からの承認によって得られる自己肯定感が下がり、精神的にも不安定になる時期だと言われています。講師の日高庸晴氏は、厚生労働省エイズ対策研究事業の一環として、数多くの研究を実施しておられます。研究結果の一部は『ゲイ・バイセクシュアル男性の健康レポート』として刊行しており、当日は、マスコミにも取り上げられた「ゲイ・バイセクシャル6000人調査 半数がいじめ被害」(朝日新聞2007年9月9日)などの調査結果に基づき、教育・保健医療・福祉・メンタルヘルスの専門家に対するさまざまな提言を行っていただきます。
事例報告のセッションでは、現役教師であり、セクシュアルマイノリティ教職員ネットワーク副代表の土肥いつき氏をコメンテーターに迎え、教育現場でどのような取り組みがなされているかについてご紹介しつつ、参加者のみなさんと活発な意見交換につなげたいと思っております。
専門職者のみならず、学生や保護者など、興味関心のある皆様に多数ご参加いただける内容になっておりますので、お知り合いにもお声をかけていただき、多数ご参加くださいますようお願い申し上げます。

大阪府立大学人間社会学部 東 優子
大阪教育大学学校危機メンタルサポートセンター 野坂 祐子
関西学院大学神学部 榎本 てる子

日時:2011年9月4日(日)13:00開場
場所: K.G.ハブスクエア(関西学院大学大阪梅田キャンパス)1004室
大阪府大阪市北区茶屋町19-19アプローズタワー10階
TEL 06-6485-5611  ※場所の問い合わせのみ

プログラム
13:30~13:45 開会の挨拶・「世界性の健康デー」について
大阪府立大学人間社会学部・教授 東 優子
13:45~15:15 若者の性的指向と健康問題―学校保健で見落とされがちな視点について―
講師 宝塚大学看護学部・准教授 日高 庸晴
15:15~16:00 休憩
16:00~17:00 事例報告&オープン・フォーラム

コメンテーター 京都府立高校・教諭 土肥いつき

【主 催】
関西性教育研修セミナー実行委員会
文部科学省「大学生の就業力育成支援(就業力GP)」事業・大阪府立大学「子育て教育系キャリア・コラボ力育成」
世界性の健康デー実行委員会
【協 賛】(財)日本性教育協会
【問合せ先】 higashi@sw.osakafu-u.ac.jp

具体的内容はこちら
旧版PDF→http://opu-collabo.com/admin/document/2011_09_04.pdf

世界性の健康デー(WSHD)公開フォーラム
… 学校のなかの性的マイノリティ ー教育現場における排除と包摂ー … 終えて

・開会挨拶と「世界 性の健康デー」について(社会福祉学科 教授 東優子先生)

It gets better project( http://www.itgetsbetter.org.jp/)が著作権フリーで配信している、ゲイのコーラスグループがシンディ・ローパーの「True Colors」を歌う動画をバックに流しながら、開会の挨拶とともに「世界 性の健康デー」について、主催団体についての説明がありました。
また、池上千寿子氏が性科学学会で日本人として一人金賞を受賞されたことを報告して下さいました。

・若者の性的指向と健康問題:学校保健で見落とされがちな問題について(宝塚大学 看護学部 准教授 日高庸晴先生)

ゲイ/バイセクシュアル男性をメインに、HIV/AIDSの問題からセクシュアル・マイノリティに対する研究アプローチを1998年頃から開始。1995年/2005年に行ったインターネット上での6000人を対象としたアンケートでは、ゲイ/バイセクシュアル男性の約半数がこれまでになんらかのイジメを受けているという結果が出ている。HIV/AIDSについて日本の現状は、年々増加しているが爆発的な上昇はなく、東京、大阪、名古屋などの各地域の基幹となる地域で増加している。そうしたことから地方等では「うちの学校にはいない」、「うちの保健所にはきたことがない」という事が言われがちだが、基幹となる地域に各地から集まっての交流があることを認識しながら各所で適切な対応がされるべきであり、また、HIV感染のうち7割がMSM(Men who have Sex with Men:男性とセックスをする男性)、若者では8割がMSMであり、これらの視点は教育現場において必要なものである。
ゲイ/バイセクシュアル男性を中心としたセクシュアル・マイノリティが受けているヘイトクライム(憎悪犯罪)については、1998年にアメリカ・ワイオミング州でゲイの大学生が残忍な手段で殺害された事件や、イランで10代のゲイが絞首刑になった事例を紹介。イランでは、国をあげてのヘイトクライムをしている一方でHIVは増加の一途を辿っており、国連から対策を求められている。アメリカの連邦法ではヘイトクライムを禁じており、その中の被害の15%が性的指向に関連するものだが、それはあくまで被害受理件数である。アメリカで特別多いという話ではなく、日本でもヘイトクライムは存在するがそれを禁じる法律はない。
同性愛者の自殺リスクとして、自殺を考えたことがあるゲイ男性は全体の約65%、自殺未遂を行ったことがあるのは約15%であり、教育現場でのいじめの経験値も高い。また、自らの性的指向に対し自覚的になる、自殺企図や未遂を行動に起こす年齢が中学・高校の学齢期に相当するものが多いことからも、教育現場における対応の重要性が伺える。教育現場での性的指向、同性愛についての情報提供については、何らかの形で行われているという割合が増えてきてもいるが、アンケートの中では毎回「教育現場では適切な情報提供が行われていなかった」という割合が90%を上回っている。それらを一切習っていないという人の割合は減っているものの、教育の中でマイナス要素となる情報を入れられた経験値が高く、一概に良いことだとは言えない。性的指向について人権問題として捉え、大きく授業の中に取り込めなかったとしても、普段の生活の中での言葉掛けや、養護教諭など、より多くセクシュアル・マイノリティの問題に気づける可能性のある存在から発信していくことが望まれる。
親に対して自らの性的指向をカムアウト出来たのは約10%、友達には約50%であり、出来た場合でもそれらの人材が「親身になって聴いてくれる」「理解がある」ということとは、また別の話である。カウンセリング等で心理職の介入を望む割合は高いが、実際、性的指向に理解のある機関を紹介しても半年待ちであるなど、日常の中での介入が難しい。性的指向を開示するということは日常生活の中で不都合が起こる場合も多いことであり、身近で理解を示した上で、特別に性的指向について開示せずとも安全の中で話が出来る環境が必要である。例えばレッドリボンを身につけているなど、なんらかの形で「サポートする」というメッセージを出して行くことが重要だ。性的指向を言いやすくする環境を作るということが既に支援であり、「性的指向を言ってくれないから」「話してくれない」と、相手を責めてはいけない。誰がセクシュアル・マイノリティかは周りから見てもわからないが、彼らにとっても、誰が本当の理解者かがわからないのだから。
MSM等のセックスについて、コンドームの使用率などについては特に「自己責任」が問われがちだが、こうした諸々の経験が積もり積もって安全なセックスを選択しなくなる。セックスを男女間の問題としてばかり語っていたら、いつになっても予防行動には繋がらず、またそうした情報提供等に付いては、より早期な段階で伝えることが必要となる。多数派から外れていればいるほど、社会ではタブーとなり理解してもらえなくなるが、その前段階として、教育現場においてそれらへの視点を変えていくことが必要となっている。

・事例報告(京都府立高校 教諭 土肥いつき先生)

人権ポスターや部落出身の生徒の作文の提示から、部落や在日の問題、セクシュアリティについての問題、多くの人権問題に変わらない問題点があるということを指摘。日常のコミュニティの中で、トランスジェンダーの子どもたちは同様の問題を抱えた子どもと出会うチャンスもなく、普段抱えている問題についてシェア出来ることも少なく、そうした中で親も教員も全て敵と認識してしまう。生徒もそうであるが、教員自体も孤立しやすく、そうした中、一人で抱え込むと一本の道しか出来てはいかない。それぞれの「出会う場所」とするため、大阪の日之出地区の集会場において2006年よりトランスジェンダー及び広くセクシュアル・マイノリティの為の交流会を主宰している。地域のNPOとの連携もあり、多様な社会問題、他のマイノリティと出会う中で子ども自身が気づきを得て、他者の生き方を知る中でどう自分自身の道を突破するかを見出している。水平社宣言の中に「私は小石になりたい」というものがあるが、労り、可哀想だから助ける、という発想ではなく、多様なセクシュアリティの中で、己が何者かに気付き対峙していくために、出会い関わる中で小さなハードルを少しずつ越えさせ、たまにはこけたりしながらも立ち上がれるような環境を作っている。交流会では、そうした問題に対して、いかに個別性と普遍性をミックスさせるかということを重要視している。

・事例報告(“共生社会をつくる”セクシュアル・マイノリティ支援全国ネットワーク 副代表 宇佐美翔子先生)

共生ネットが行っているセクシュアル・マイノリティの視点を国政に取り入れるための提言、悩みホットラインや同行支援など当事者への直接支援、教育啓発、教材制作、情報提供、ネットワーク形成事業についての紹介。教材として制作されたDVD「セクシュアル・マイノリティ理解のために~子どもたちの学校生活とこころを守る~」では、性の多様性についての解説、学校生活の中で起きた多くの問題やその時のこころについての当事者の語りや解説、また親と教師のための支援情報が入っている。トイレの使用等具体的な困難や、性的指向やジェンダー規範によるいじめの被害やそれ自体が収束した後も尚PTSD等で当事者を苦しめ続けた被害について、またカミングアウトの意味やそれに伴う困難、そしてそのアフターケアの重要性をDVD内の当事者の語り2件を軸に報告。自殺リスクの調査で自殺企図の割合がゲイ/バイセクシュアル男性で65.9%、レズビアンで74.9%、トランスで68.7%というものがあり、一般の19.1%より大幅にリスクが高い。共生ネットではセクシュアル・マイノリティが社会的に抱えてきた困難さ、「影の部分」にもコミットすることによって、社会、国政に対して提言を行い、全ての人たちにとって生きやすい社会の構築を目指している。

・事例報告&意見交換

会場から「セクシュアル・マイノリティの話をした時に、同性愛など“性同一性障害”以外を語ると、どうしても多少マイナスな空気感が感じられるが、そうした空気を払拭するた為に具体的にどのような対応があるか」、「否定的な情報が先立って肯定的な情報が思いつかない。セクマイ以外の人にどういった発信をすべきか」、「小学校の最初の面談で“男の子ですか?女の子ですか?”という質問がある。性別違和に気づく年齢が小学校入学前である率が50%以上というのを聞いて、より早い段階で情報が必要が必要だと感じた」、「子どもも大切だが、大人に対して教育をしなおしてくれと思う。どのセクシュアリティかということ、全部ひっくるめてそれでいいと思うし、今日の学びを今後に生かしていきたい」といった質問や報告、感想が出て、登壇者からは、「空気が変わったのであればそれはチャンス。なぜそうなったのか、それらの話をただ当たり前の事として語って行くことしかない」、「足下から作って行く。生徒会や教室、隠れたカリキュラムから抜け出して話せる場所を増やしていくしかない」、「どんな内容であれ、とにかくなかった事にせず語られるということだけでも、一定のポジティブさはある。そこから進めていけばいい」、「市民講座などで一般の大人への啓発と共に、より飲み込みの早い子どもへのアクセスも必要」、「ハード面でのシステムを作ること。組織を変えることで社会を変える」、「より壁が高い人から変えることで社会が変わることもある」などの意見をいただき、活発な交流がなされました。

…写真からみる公開フォーラム

dfcdb7f543a354d1c18cae3ca15053a9
Youtubeの動画を流しながら

1b4b198390ca39d0a79213cd57a2997a
講演に引き込まれる学生たち

… 参加者の声(学生)

●感想
『自殺、いじめの問題に大きく関わっていることがわかりました。』

『今の日本では性的マイノリティに対して嫌悪感を持つ人はいても“公に”迫害はされていない環境ですが、イランの絞首刑の話をきいて、宗教の問題もあるにしても環境が違いすぎると知りました。』

『学校の性教育の中で、同性愛のみを取り上げた授業をするのではなくて、同性愛の話題も入れながらかたよらないよう授業をすると良いことを学びました』

『教育の場で男女間の知識だけでなく、LGBTについての知識も、若いうちから与えていく必要があると思いました。「知らないから」人を傷つけてしまうことは多いと思います。』

『マイノリティの人々の背中を押すことだけではなく、その人たちがしっかり生活して生きていけるように一緒に乗りこえていこうという社会を作っていけたらいいなと思いました。』

『会場のフロアにいる人と主催側で意見を交換できているのが良かった。』

『自分の価値観で話をすすめてはいけないことがわかりました。』

『性の問題はどこでもひっついてくることだと思うので考え方が広がってよかったです。』

『いろんな立場の人が来られていて、様々な意見を聞くことが解決につながると思った。』

… 参加者の声(一般の方)

●感想
『最初のYou Tubeの動画、すごく印象的でした。』

『You tubeの映像を流したり、概要を説明されていて分かりやすかった。』

『日本国内で「性」を取り上げていくことがまだまだ受け入れられていきにくいなかでこうした日をもうけていくことで一人一人で考えるきっかけになるので、どんどん活動が広がればと思います。』

『東先生の活発さというか情熱があって、最初から来て良かった!という風に感じられた。』

『自分が日々、接している子どもたちにどう生かしてゆくのか、ゆけるのか考えさせられました。』

『「ゲイ」と呼ばれる人たち(子どもたち)の置かれた状況、そして心の痛みの一端をきいて、ほんとに苦しくて泣けました。日常の生活の中でサラリと存在に触れるのはどんな学習のときでも大切だと私も思います。特設学習もある意味大切だけど、自然にはなすことの方が子どもたちにとっては大切です。それは身近なことだからです。』

『同性愛やセクシャルマイノリティは学校では本当に見落とされている部分だと思います。そのなかで日頃から日常生活のなかでセクシャルマイノリティの存在を伝えていく必要性と有効性がとても良かったです。』

『セクシュアリティ教育や同性愛に関することを学ぶ時間は学生時代にはなかったように私も思います。学習の時間だけでなく、普段の会話からでも少しずつ情報を発信していければと思いました。』

『私は教員なので、よく知らないで済ますのではなく、わからないのであれば、相手と人間関係を形成して聞き出す環境作りこそ、我々教員としての役目だと感じました。』

『いつもながらとても面白く聞けた。人権教育とのつながりはとても共感できる。』

『とても情熱的で、これまでの人生がにじみでておられました。今、保健師としてでなく高校生の頃にお会いしていたらもっと衡激的だったと思います。』

『「その子に必要なハードルを立ててあげる」という言葉が心に残りました。』

『いろいろなマイノリティの交流することによって、他者を認め自分を考えることができることはとても大切だと思います。私も性以外のマイノリティを感じているからこそ今の活動をしていると改めて思いました。しゃべりもおもしろいです!』

『話が面白かった。擁護ではなく、ハードルをこえさせる・・・というのは本当に大切だし、今までマイノリティの支援において欠けていた視点だと思う。』

『当事者にしかわからない苦悩や心の辛さ、当事者からすれば理不尽な対応に耐えること、深い傷、自殺まで考えることに現実に自分も辛くなった。教師として、自分の教育は、すぐにこたえが出るものでないことをあらためて知って子どもたちの未来を明るい方に照らしてあげる接し方をしたいと思った。』

『性教育をするのもなかなか難しいといわれているが、セクマイの情報提供を教育現場でおこなっているのはいい動きだと思います。当たり前じゃないといわれていることを当たり前にするのはパワーがいるなと思いました。』
『教育現場に立つ者として、実際的によく理解できたし、自分自身の教育実践をふりかえるポイントがいくつもあった。さて、子どもたちにこれをどう返していくのか思案します。ありがとうございました。』

『高校の教員です。とっても楽しみにしていて期待していたものでした。ありがとうございます。今日頂いた材料をどう料理するかをじっくり自身で考えようと思います。』

『自分の仕事の重大性、すばらしさを感じることができて良かったです。』

『今日はたくさんの立場の方が参加されていて、自分の知らなかったことを知ることができました。私ができることは、自分の勤めている所(教委)での現状を知って、何が必要か、できるかを考えていくことかなと思いました。また色々と教えてください。よろしくおねがいします。』

『不登校やひきこもり、自殺などの背景に性的指向の悩みなどがあるかもしれないと感じた。色んな分野からのアプローチが必要であると思う。』