研究科の魅力を語る

category

研究科の魅力を語る for 2018

さまざまな立場でユニークな研究をしている院生が、研究科の魅力を語ります。

牧岡省吾 研究科長所属と自己紹介をお願いします。

深江健吾現代システム科学専攻、環境システム学分野、修士課程二年生です。環境化学を専門とする研究室で、環境測定に関する研究をしています。
<指導教員:竹中規訓>

ガルサンジグメド
・エンフゾル
人間科学専攻、博士後期課程一年生、モンゴルからの留学生です。ジェンダー学、社会学、経営学を基礎とし、多国籍企業における女性の労働に関する研究をしています。
<指導教員:田間泰子>

藤岡 佳社会福祉学専攻、博士前期課程二年生です。私は内部進学なので、府大歴は6年目になります。昨年度から、スクールソーシャルワーカーとして学校で働いてもいます。
<指導教員:山野則子>

藤田修二言語文化学専攻、博士後期課程一年生、日本語と英語の対照研究をしています。年齢は64歳。高等学校で30年あまり英語を教えてきました。定年を機に総決算をしたいと考え、大学院で学んでいます。
<指導教員:高垣由美>

※2017年時

牧岡研究科長研究の内容はどのようなものでしょうか。またなぜ、そのテーマを選びましたか。研究テーマの魅力は何でしょうか。

深江パッシブサンプラーという大気中のガスの測定に使われていた小型の大気捕集機を、土壌中や積雪中のガスの測定に応用する研究をしています。従来の多くの大気分析法では、ポンプによってガスを吸引しサンプルを捕集していました。この方法で土壌中などのガスを測定する場合、空気の流れが生じ、広範囲の土壌中ガスを捕集することになり、局所的な測定はできません。この問題を解決するために、ガスの拡散を利用して目的物質を捕集するパッシブサンプラーを使用することで、土壌中の空気を乱すことなく、ガスの濃度を測定できると考えました。実験では、パッシブサンプラーによる土壌中ガスの測定を評価するために、ポンプを使った測定法であるフィルターパック法と比較したりしています。研究テーマの選定は、教授と研究室の先輩がこのサンプラーを使って今までの測定方法よりも正確に積雪中の大気を測定できるのではないかと考え、これを私がしてみたいと志願したのがきっかけです。この研究の魅力は、既存の機器を誰も想像していなかった方法で応用しているという点です。

藤田私の研究テーマは、日本語と英語の表現形式のずれを明らかにすることです。そのずれを有効に活用して、日本語をよりスムーズに英語で表現できる指針を作れたらいいなと思っています。英語を教えているとわからないことがいくらでも出てきます。「よくまあ教師をやっていたな」って思うくらいです。参考書や辞書では、解決できないことが多く、「自分で研究しよう」と思い立ったのです。例えば、「変える」はchange、「変わる」もchange。「見つける」はfind、しかし、「見つかる」に対応する英語はない。ここに表現上のずれがあるわけです。「見つかる」を自然発生的な行為、あるいは無意志的な事態と名付けるならば、日本語には無意志的な事態を表す表現が非常に多いのです。それに反して、英語では、いろいろな事態を人間の意志的な行為として表す表現が多いように思われます。すると、そんな日本語を英語で表現しようとするとき、高校生は戸惑うわけです。このあたりが研究をしょうと考えた原点です。私の研究テーマの魅力は、言語現象の奥に潜んでいる思考様式や文化にまで考察を深められるということです。言語現象を解明するのには、どうしても文化的な側面を無視できないと考えるので、この研究科にある「言語文化学」という名称に惹かれました。

エンフゾル私は博士前期課程の時には、モンゴルにおける日系企業で働く女性の働き方を研究しました。日本では近年、女性の活躍と活用が重要とされ、企業側も様々な施策を取り、女性労働者は増え続ける傾向にありますが、就職しても、結婚・出産・育児などを機に離職する傾向が見られます。一方モンゴルでは、女性労働率が高く、高学歴化している社会で、女性は結婚・出産・育児を機に離職する傾向が見られません。そこで、モンゴルに進出している日系企業ではどうだろうかと考えたのです。この研究の魅力は、グローバル化する社会で、本国での企業が海外へ進出した際、女性労働者のマネジメントを変えているかなどを明確にすることができることだと思っています。

藤岡私の研究のテーマは、「スクールソーシャルワーカー(SSWer)が困難を乗り越えていくプロセス」です。SSWerは、子どもや家庭が抱えている課題の解決を目指し、学校などにおいて活動する福祉の専門家です。自分がSSWerとして活動してみて、現場での孤独感や自分の無力感などを感じた経験から、このテーマを選びました。SSWerは、子どもの貧困や児童虐待など、今、注目されてきている職だと思います。自分で言うのも変ですが、すごくいい仕事だと思っています。でもやはり、1年目は精神的にしんどかったです。何度も壁にぶつかるし、「他の人はできているのになぜ私だけが?」という無力感もありました。「でもこれって、社会人1年目なら誰でも経験することなのではないかな」と思った時に、SSWerにはその時に支えてもらえるような環境が整っていないことに気づきました。そこで、経験年数ごとに必要なスキルや、スキルアップしていくプロセスを明らかにすることで、SSWerの励みになり、キャリアの参考にできるものを考えたいと思いました。つまり、支援者であるSSWerを支えることに焦点をあてる研究です。SSW分野の研究では、あまり触れられていないテーマを扱っていることが、私の研究の魅力だと思っています。

パッシブサンプラー(大気捕集機)は、拡散フィルターの中の特殊な吸着剤に、化学物質を吸着させることができます。

牧岡研究科長修士のお二人は、入学後の研究は、どのように進んでいますか。

藤岡入学して1年目の昨年度は、週に2日ほど授業を受けて、週に3日ほど仕事をするというスケジュールだったので、正直なところ、新しい生活に慣れるのに必死でした。そのなかで、先行研究の整理や研究デザインの組み立てを進めていきました。私は、入学後にSSWに関する研究をしようと決めたので、研究デザインがまとまったのは遅かったのですが、SSW関連の研究会や学会に参加し、指導教員からの紹介で、大阪府の貧困調査に関わらせてもらった経験や、他の自治体のSSWとの出会いが研究のヒントとなりました。このような体験を通して、「この研究を必要だと思っているのは、私だけではない。」と背中を押してもらえた気がします。

深江大学院進学後、実験室内でパッシブサンプラーが土壌などで使用できるかを確認し、実際の畑や雪山に行き何度かサンプリングを行ないました。学会では修士1年次に大気環境学会と大気環境学会近畿支部で発表し、今年の9月にも大気環境学会に参加する予定です。また、私の専攻の場合、グループワークや論文の輪読といった授業が多く、自分の専門分野以外のことや、社会に出て必要となるスキルも学びます。そのため、大学院入学後、物事を多角的に捉える力や、コミュニケーション能力、論理的思考力が身に付いていっていることを強く実感しています。大学院は研究だけをする場所ではなく、様々な事を経験し学べる場所だと思いました。

牧岡研究科長博士後期課程のお二人は、入学後にあげられた研究成果などがあれば、教えてください。

藤田指導教授の高垣由美先生のすすめで、日本認知言語学会に入会し、今年の9月に全国大会で発表しました。高垣先生は励ますのが上手な先生で、英語での発表を勧められました。また『日本認知言語学会論文集』にも、英語で論文を発表することになりました。でも本当は大変なプレッシャーを感じていて、逃げ出したいくらいです。(笑)

エンフゾル日本フェミニスト経済学会に入会し、この7月に発表をしました。学会では、自分の同じ博士後期課程の学生や、有名な研究者が発表しているのを聞き、普通は話すこともできない研究者などにお会いできる貴重な機会でした。次は、10月に行われる、第二回東アジア日本研究者協議会国際学術会で発表する予定です。また今年中に、大阪府立大学大学院人間社会システム科学研究科が発行する『人間社会学研究集録』に論文を投稿できるように進めています。

牧岡研究科長社会人の藤岡さんと藤田さんにとって、働きながら学ぶというのは大変だと思いますが、どのようにしておられるのでしょうか。

藤岡私は、一般入試で入りましたが、入学と同じタイミングで仕事を始めたので、慣れるまでは苦労しました。仕事と学業との両立は、完璧にできているとは言えませんが、仕事の日と大学院の日を決めて、勉強するときは大学に行くなど、環境を変えて切り替えるようにしています。でも、仕事で失敗すると、勉強のやる気がなくなったり、逆もあったりと双方の影響を受けてしまうことはよくあります。その時は、社会人の先輩院生たちに話を聞いてもらい、乗り越えています。両立は大変ですが、社会人入試で入学された方が多いので、支えあうことができますし、仕事の相談もできるので、助かっています。

藤田私は、定年で一旦は退職しましたが、再雇用という形で週3日勤務しています。非常勤ではなくて、教諭という身分なので、勤務日数こそ3日ですが職員会議にも出席します。部活動の顧問もしています。私は博士論文が3年で書けるとは思っていませんでしたが、大阪府立大学大学院では、社会人のための長期履修制度※1があるため、安心して落ち着いて研究できます。また私の場合、研究の原点が、教室の中にあるので、体力と能力の続く限り教壇に立ちたいと思っています。長期履修制度はありがたいものです。

※1 職業を有している等の事情により、標準修業年限での教育課程の履修が困難な学生を対象として、標準修業年限を超えて計画的に履修し、教育課程を修了することにより、学位を取得することができる制度

高校生に英語を教える藤田さん。

牧岡研究科長研究時間の確保という点では、子育て中のエンフゾルさんは、どうしておられるのか教えてください。

エンフゾル日本に留学したいと思い受験した時は、妊娠していました。その時も、モンゴル大学院大学で勉強しながら仕事もしていましたので、日本に行っても研究も子育てもできるという自信がありました。日本の大学院に合格した当時、息子は1歳4ヶ月でした。日本に来て一年目は、子供が保育園に入所できなくて、夫が子育ての支援をしてくれました。翌年からは認定こども園に入所できたので、子供を送ってからお迎えにいく間の時間を、有効活用するように頑張っています。博士後期課程では必修単位が少ないので、自分が行ける曜日や時間に合わせて通学日を選んでいます。また、研究科の先生方がとても優しく、子育て中であることを理解してくださり、「子供がいるから、学業と子育ての両立は不可能」とおっしゃったことはありません。だからこそ私はとても強くなれますし、頑張りたいと思うのです。そもそも私が「ジェンダー・女性の労働に関する研究」をしたいと思ったのは、子供がいるからでした。もし子供がいなかったら、この分野に興味を持たなかったかもしれません。また、学業だけに集中するのではなく、子供という楽しみもあるので毎日が楽しいですし、あまりストレスも感じていません。できるだけ子育てと学業のどちらかに偏らないようにしています。夫の支えと理解があるので、両立することを困難だと思っていません。

牧岡研究科長エンフゾルさんと藤田さんは、他の大学院のご出身で、博士後期課程で初めて大阪府立大学大学院に来られましたね。

エンフゾル私は2015年大阪大学経済学研究科経営学系グロバールマネジメント専攻博士前期課程に入学し、日本での女性の活躍に興味を持ちました。そこでワークライフバランスや長時間労働などに関して、モンゴルでの日本企業の経営の事例研究を行いました。そこでジェンダーや女性に関する研究に興味を持ち、田間先生に連絡したところ受け入れてくださいました。田間先生は本当に素晴らしい先生で、初めて大学院の入試説明会※2でお会いした時に「この先生の指導のもとで研究がしたい」と強く思いました。

藤田定年後いろいろな大学の修士課程を調べて、奈良教育大学大学院に入学しました。修了後、もっと研究をと考えましたが、奈良教育大学には修士課程しかありませんでした。また、その頃には言語の背景にある文化的なものにまで私の興味が広がってきたので、より広い視野で研究を進められる大学院を探しました。そして、府大の言語文化学専攻と出会いました。私の場合も入試説明会※で、本当に丁寧に説明し対応して下さったので、このような先生方のおられるところなら安心して研究ができると思い、受験しました。

※2 大学院入試説明会は毎年2回、6月頃と11月頃の日曜日に行っている。情報はHPで随時公開。次回は2017年11月5日(日)開催。

牧岡研究科長深江さんと藤岡さんは内部進学されましたが、大学院へ進もうと思われたのはなぜでしょうか。

深江私は高校生の時から、大学院で研究がしたいと考えていました。そのため、大学三年生の時は、進路について迷うことはありませんでした。大学院に進もうと考えていた理由は、大学での勉強は大学院で研究するための準備だと考えていたからです。せっかくひとつの分野を専門的に学ぶ機会があるのなら、学んだことを自身の考えのもと消化し、表現してみたいと思っていました。また将来のことを考えると、勉強できる時間を持てる時に勉強しておくことが、たとえ研究分野とは違う分野に進んだとしても何らかの形で活きてくると考えたからです。

藤岡私が大学院への進学を考えたのは、学士課程3年生の時の社会福祉実習がきっかけです。生活保護に関する窓口や子育て支援、高齢者支援、障害者支援など、様々な分野の実習をさせてもらいました。そこで、自分の視野の狭さや無知であるということをすごく感じました。それまでは、保育を中心に学んでいたので、もっと福祉のことを学びたいと思い、大学院への興味を持ちました。社会福祉では、他分野や他職種との「連携」ということをよく言いますが、どちらかだけを知っているだけでは、うまくいかなかったり、そもそも連携が取れなかったりすると思います。双方が相手を知ること、相手に知ってもらうことが重要だと感じ、自分が「知ること」から始めようと思い、大学院に進学しました。

牧岡研究科長エンフゾルさんは留学生ですが、日本で学生生活を送るうえで、感じたことなどを教えてください。

エンフゾル日本には3年前に来ましたが、最近やっと日本での生活に慣れてきました。日本は文化や伝統がある国ですので、礼儀や言葉など全てを学んでいかなければなりません。一方で、日本の大学は、教育面及び教育環境がとても整っていて、自分さえ頑張れば、優れた研究や成果を十分出すことができると感じています。例えば、図書館であれば、府立図書館だけでなく、他大学の図書館が利用でき、リモートサービスを使えば、必要な論文や博士論文を学外で読むこともできます。

牧岡研究科長博士後期課程には、副指導教員という制度がありますが、この制度をどのように活用しておられますか。

エンフゾル私の研究の場合は、副指導教員の研究に深く関わりがあります。副指導教員にもメールで問い合わせたり、個人指導の時間を作っていただいたりして、積極的にこの制度を使わせていただいています。副指導教員を中心としたジェンダー系の学生達が集まった自主ゼミに参加したこともあり、入学後に副指導教員が所属する学会に入会し、そこで発表もしました。

藤田私は英語教師で、日英対照研究をしているのですが、気がつけば、日本語のことは何も知らなかったのです。そこで、ゼロから日本語の文法を勉強するために、日本語学の先生に副指導教員をお願いしました。文献は山ほどあるので何から勉強すればいいか解らなかったのですが、早速1冊の本を紹介して下さいました。熟読し、大いに研究の参考になりました。

牧岡研究科長これからの研究上の抱負はどういうものですか。

藤田目標は、高校生に分かりやすい1冊の英文法書を書くことです。日英語の表現形式のずれを中心に解明し、日本語の発想をいかにスムーズに英語につなげるかということが中心になります。それができれば、これまでの英語教師としての締めくくりになると思います。たとえできなくても、指導教員の高垣先生が私の修士論文を評価してくださって、今まさに、締めくくりをしようとして研究できていることがとても嬉しいことです。

深江今後は、今の研究を論文にできるよう細かな問題点を解決し、修了までに学会誌に投稿したいと考えています。また、新しいテーマの研究もはじめたいと考えていて、今は構想を練っている段階です。修了後は、もともと興味があった環境の分野で、大学院で学んだことを生かして環境問題に取り組んでいきたいと考えています。環境調査をしたり環境政策に関わったりなど、自分が今までしてきた勉強や研究を活かせる職場に就く予定です。

藤岡この私の研究が、スクールソーシャルワーカーの実態を知るきっかけになったり、「スクールソーシャルワーカーになりたい!この仕事を頑張ろう!」と思ってくれる方が増えるきっかけになることを願っています。常に、私が知りたいことは何か、ということを見失わないように励んでいきたいです。

エンフゾル日本には、モンゴルにおける日系企業に関する研究はあまりなく、特に女性の働き方に関する研究はありません。私はモンゴル国籍ですので、すでに進出している日本企業及び日系企業の研究を行い、今後新たな企業がモンゴルに進出する際に、役に立つような研究をしていきたいです。

牧岡研究科長大阪府立大学大学院に入学したい人たちに、アドバイスをお願いします。

深江大学院では、大学4年間で勉強してきたことをどのように活かせるのかを学び、ひとつの課題(研究)にとことん向き合う経験を通して、問題解決に必要な力を身につけていきます。先にも申しましたが、大学院は研究だけをする場所ではなく、様々な事を経験し学べる場所です。大学院に進学するか悩んでいる学生の皆さん、また、大学院へ進むことをあまり考えていない学生の皆さん、大学での勉強に物足りなさを感じていたり、人としてもっと成長したいと考えているなら、まずは一度、大学院の学生と話してみることをお勧めします。大学院に進むとどういう人に成長できるのか、自分がどんなことを学べるのか、その人を通して実感できると思います。

藤岡大阪府立大学は、すごく温かいところだと思います。先生方との距離が近く、研究以外の話も気さくに話してくださったり、仕事で落ち込んでいるときには、「大丈夫?」と声をかけてくださったりもします。また、学生の関心や希望にすごく丁寧に応えてくださるので、研究の環境としてもとてもいいと思います。他専攻・他研究科の院生と知り合う機会もあるので、たくさんの刺激のなかで、学べると思います。いろいろな理由で、大学院に入ることを悩むこともあるかもしれませんが、興味がある時に、ぜひ挑戦してほしいです!

藤田この研究科の良い所は、自分の専門と共に、幅の広い視野を持った研究もできることです。また、多くの留学生が真剣に日本語の学びをしているのも、私にとっては貴重な異文化体験の機会となっています。大阪府立大学の大学院で幅の広い研究を志しませんか。

<<前の記事トップページ