研究科の魅力を語る

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VOICE 研究科の魅力 教員からのメッセージ for 2015

高垣由美

言語文化学 教授

【専攻分野】テクスト言語学・フランス語学。テクスト構造の比較研究、対照修辞学、日本語とフランス語の文法対照研究

私の研究分野はテクスト言語学、対照言語学、対照修辞学、フランス語学です。
 日本人の書く英語やフランス語は、文法的には正しい文が並んでいても、「結局何が言いたいのかよくわからない」と、その言語の母語話者からは評価されて しまうことがあります。これは文章を作っていく上の論理展開の仕方が、言語や文化によって異なることに起因する場合が多いのです。このような問題意識を元 に、フランス語と日本語の文章の構成や文と文のつながり方の違いなどを研究しています。そのまとまった成果は、日本とフランスで同時出版した著書 De la rhétorique contrastive à la linguistique textuelle : l’organisation textuelle du français et du japonais(『対照修辞学からテクスト言語学へ——日本語とフランス語のテクスト構成——』)に結実しています。
 最近はこの本で論じたテーマをさらに進化させて、フランス語の文章構造の統語的・語用論的解明を、日本語との比較で深めています。

工藤宏司

人間科学 准教授

【専攻分野】社会問題論・逸脱論/教育社会学。 「不登校」「ひきこもり」現象の社会構築主義的研究

私が研究しているのは社会学、とりわけ、社会問題論や逸脱論と呼ばれる分野です。具体的には、「不登校」や「ひきこもり」「ニート」といった、主に若い人 たちの退行と呼ばれる行為について考えています。ただ、こうしたテーマに関わる多くの方が考えるような「なぜ彼らはそうした行為をするのか」「その解決策 はどのようなものが考えられるか」といったものが、私の問いではありません。どのような逸脱や社会問題であっても、いま私たちが自明視する解釈パターンや 対応の社会的制度化には、人びとの間での主張「コンテスト」がありました。言い換えれば、「絶対的な悪」「絶対的な善」というものは無いし、もし仮に、そ のようなものがあると私たちが考えるなら、そこにはそうなってきた歴史があり、それを支える論理、あるいはしばしば「権力」があります。私が考える「社会 学」、特に「社会構築主義」と呼ばれる立場では、こうした「『あたり前』の陰にある人びとの思考の成り立ちや行為のやりとりの過程」を分析します。それ は、私たちが自明視する「知」を根本的に問いなおす試みにもなると考えています。

西田芳正

社会福祉学 教授

【専攻分野】社会学。貧困層、マイノリティの教育に関する研究/地位達成を阻害する要因及び社会的排除の研究

教育社会学を専門とし、不利、困難さが重層した状況で生まれ育つ子どもや若者の学校生活、地域での生活、大人への移行過程を捉えることで、不平等の再生産 メカニズムを解明し、改善の方策を考えてきました。欧州発の「社会的排除」という言葉を知り、「こだわってきた事柄はこの言葉で言い表せる」と考え、その 後はもっぱら「子ども・若者の貧困と排除」がテーマだと自己紹介しています。
 研究手法は、参与観察と生活史インタビュー。大学院時代、ある漁村部落で住み込みの調査をしていたときのこと。真夜中、当地のヤンキー中学生に連れ出さ れ、無免、無灯火(!)の中型バイクに同乗したことがありました。「なぜ、勉強から背を向け、遊びの世界に入っていくのか?」そんな問いについてカラダで 答えを感じ取る絶好のチャンスだったのですが、降るような星の輝きと田んぼ一面のホタルの光のなかで、運転する彼にしがみついていたことしか覚えていませ ん。遠い昔の、ほろ苦いエピソードです。あれから30年間、日々の生活を間近で観る、本人の口からその時々の経験と思いを聞き取ることで、周りからは誤解 されがちな生活を描き出すことを目指してきました。

村田右富実

言語文化学 教授

【専攻分野】上代日本文学。万葉集を中心とした上代韻文学の研究

専門分野は奈良時代以前の文学、とりわけ『万葉集』です。最近の主な研究は次の三点にまとめられます。

 1.旅人歌・憶良歌の特質の解明
 2.統計学を用いた万葉歌の解析
 3.写真と万葉歌との協同

1は表現分析と用字を基本に置いた研究です。「『万葉集』巻五の前半部の性質について」(『万葉集研究』第34集/2013)が最新です。2は例を挙げて 説明しましょう。短歌は基本的に31音節から成り立っていますから、31の母音が存在します。この母音の動きを追えば、歌の特徴を把握できるはずです。こ れを統計学的に解析しました。「多変量解析を用いた万葉短歌の声調外在化について」(『美夫君志』88号/2014年)が一番新しい論文です。3は万葉集 の面白さをより多くの人に伝える活動です。『入江泰吉の万葉風景 よみがえる万葉のこころ』(2013年)が直近のものです。もちろん、ゼミの院生がこれ らすべてについて研究しているわけではありません。自分の興味に応じて研究しています。院生の研究テーマを掲げますが、皆バラバラです。「字音と字訓とが 類似する漢字」「万葉における難波」「万葉歌の発話表現」「万葉の詠物歌」。どうです?一緒に研究しませんか?


細見和之

人間科学 教授

【専攻分野】現代思想、比較文学、比較文化。アドルノ、ベンヤミンを中心とした現代思想、及び在日文学をはじめとした近現代の文学研究

20世紀のユダヤ系の思想家を中心に研究しています。彼ら、彼女らの思想を考えるうえで、ホロコーストという決定的な出来事を避けて通ることはできませ ん。生死を分かつ決定的な体験を背負って、困難な亡命の日々を潜り抜けて紡がれたその思想には、今後の世界を構想してゆくうえで、とても大事なヒントが潜 んでいます。
 同時に私は学生時代から詩を書いてきました。「詩」を中心にした、日本と欧米の文芸批評・文化批評も私の大切なテーマです。
 哲学と詩、この二つは表面的には相容れません。詩は哲学の概念や理屈っぽさを嫌いますし、哲学は詩の言葉の多義性を厭わしく感じます。「哲学的な詩」 「詩的な哲学」――どちらも必ずしも褒め言葉ではありません。しかし、一見正反対の方向から、言葉を通じて現実を捉えるという一点では、両者は同じことを 目指しているのだと思っています。

中谷奈津子

社会福祉学 准教授

【専攻分野】保育理論。 保育学、家族支援研究/子育てを取り巻く諸問題、地域子育て支援

 「子どもは社会の宝」です。生まれてくる子どもには、その生命を家族、地域、社会全体から大切にしてもらえる権利があると考えています。一方で、子ども の虐待問題も深刻化しています。地域コミュニティの希薄化や雇用の流動化、多様化する家族のかたちなど、社会全体の変動が子どもの育ちに大きく関わってい るのです。次の社会の担い手でもある子どもたちが健やかに育つためには何が必要か、どんな支援や体制が虐待の「予防」につながるのか、そんなことを日々考 えています。
 私の関心領域は大きくは子育て支援ですが、そこには保育の新しい役割、保育所における家族支援、住民の主体性の育成、父親・母親の意識や役割の変容、な どが含まれます。特に現在は、保育所において保護者の生活困難を早期に発見し、早期に対応するにはどうしたらよいかという研究に取り組んでいます。生活課 題が複雑化する中、各家庭が子育てを主体的に行うための日常の支援モデルを構築したいと考えています。

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