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草の根から社会を変革する―「女性のためのコミュニティスペース」の取組み(その1)

2022年2月14日

田間泰子

(大阪府立大学名誉教授・女性学研究センター学外研究員)

    仁科あゆ美

(一般財団法人大阪府男女共同参画推進財団(以下「ドーン財団」)理事・本部長)

 

Ⅰ.試着室に鏡がない!

コロナ禍が長く続き、今、多くの人々が苦しい状況にある。コロナ禍によらず、災害は私たちの社会のなかの不平等を拡大する。社会的に弱い立場にある人々に、災害はより厳しい状況を強いるからだ。その一方、災害が起きた時には人々が助け合い、社会のあり方を見つめ直し変えていく力も発揮される。このレポートでは、ジェンダー公正を実現するための貴重な例として、大阪府で女性への緊急支援として取り組まれている「女性のためのコミュニティスペース」を紹介する。

▶「女性のためのコミュニティスペース」(大阪府主催。ドーンセンターの指定管理者であるドーン事業共同体(ドーン財団は構成員)が事業実施。)

この事業(ドーンセンターにおける困難・課題を抱える女性に対する支援事業)は、内閣府「地域女性活躍推進交付金 ③つながりサポート型」を活用したもので、コロナ禍で苦しい状況に置かれているあらゆる女性に対する緊急支援である。

・事業期間 2021年7月14日(水)~2022年3月31日(木)

 開設時間:平日 13時~18時、土日祝日 10時~18時(月曜休館)

・場所 ドーンセンター(大阪府立男女共同参画・青少年センター)

2階情報ライブラリー内(大阪市中央区大手前1-3-49)

情報ライブラリーの一角にある「女性のためのコミュニティスペース」では、予約不要・利用無料で、就職面接用のスーツなどの衣類や、化粧品、かばん、生理用品など生活用品を提供している。それだけでなく、カウンセラー等の支援スタッフ(女性、2名)がいつもいて、必要に応じて悩みや不安を聞き、困難・課題の解決につなげるための情報収集のサポート、専門の相談窓口等の紹介を行うなど、適切なアドバイス等を行う。交流会(参加費無料)もあり、支援スタッフがファシリテータを務める中で、同じ悩みや不安を抱える女性同士が語り合い、交流できる場を提供している。

リンク先 「ドーンセンターに「女性のためのコミュニティスペース」を開設しています!

 

▶鏡がないことの効果:現実的なニーズ支援+声かけパワー

この取組みの一番おもしろいところは、試着室に鏡がないことである。服を試着し、化粧品を使ってみるのに、鏡がなくてどうするのか。鏡は、その外にある。女性は自分一人では自分を評価できないしくみなのだ。確かめるためには試着室の外に出なければならない。外に出ると、鏡とともにスタッフたちが待っている。すると、自分の着替えた姿を見る時に、周囲のスタッフが「わぁー、素敵!!」「似合ってる」「カッコいいわ~」と、本当に心の底からほめてくれる。不安は吹っ飛び(まだちょっと不安かもしれないけれど)、嬉しくなる。すると、たまたまそこを訪れていた他の女性たちも寄って来て、ほめる言葉をかけ始め、さらに盛り上がったりする。嬉しくて楽しい気持ちは、コロナ禍を吹き飛ばして伝染するのだ。これがまさに、「女性のためのコミュニティスペース」である。

嬉しさの秘訣は、女性たちの日常的な生活用品のニーズを満たしつつも、単なる物品提供ではなく、晴れの舞台に立った時のように「声かけ」を行うことにある。新しい装いの自分を、周囲の人々が心から好評価してくれる。自分をサポートしてくれる人がいるという安心感と、自分はイケるんだという自信が、モノと一緒について来る。モノをただ貰うのとは全く違うのだ。

▶利用人数ほか

昨年7月から始まったこの取組みは、今年1月末現在でのべ428人が支援を受けるために訪れた。全員がアンケートに回答してくれたわけではないが、約半数の人が「初めて」の利用で、4割の人が「2回目以上」となっている。嬉しさがリピーターを呼んでいるのである。大阪府内に住む人が76%を占めるが、府外からの利用もある。年代は10代の学生さんから70代までにわたっており、一番多いのは40代で約30%である。来所目的(複数回答)は、4割以上の人が「物品入手」だが、4割近い人が「話がしたい」、約30%の人が「情報収集」とも回答している。この取組みの目的は、生活上の困りごとや孤立の解決であるから、目的にかなった来訪者を得ていて、満足度は「大変満足」73.0%、「満足」14.0%と高い。  (続くⅡでは、この取組みの支援者についてレポートします。)