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草の根から社会を変革する―「女性のためのコミュニティスペース」の取組み(その2)

Ⅰの続きです。

Ⅱ.支援者たちも変わる

▶これまで築いた繋がりのたまもの

この取組みを支えるのは、府内でドーン財団が築いてきた繋がりである。

➀支援スタッフ:1月末現在14名のスタッフは、公認心理師・キャリアコンサルタント・産業カウンセラー・精神保健福祉士、元学校教員・養護教諭、スクールソーシャルワーカー、男女センターの相談員、家裁調停委員などである。条件は、(1)相談者に寄り添うエンパワメント視点、(2)DV被害やシングルマザーなどの課題への理解、(3)キャリア・就労、ソーシャルワーク、心理カウンセリングなどの専門性をもつこと、の3つである。スタッフは2人1組でサポートに入り、全員で定期的に情報共有を行っている。信頼できるスタッフを確保するために、長年の女性支援の活動実績が役立った。

➁物品提供:府内の23団体・企業から、9,000点を超える物品が寄贈されている。これらの団体・企業との繋がりも、長年、特にドーン財団が行ってきた女性経営者・消費者関連専門家・日本ヒープ協議会などへの研修やドーン財団役員のネットワークによるものである。また、大阪府と包括連携協定を締結している民間企業からも多くの協力を得た。これらの協力団体・企業は、SDGsで何か社会貢献をしたい、あるいはコロナ禍で何か支援をしたいという気持ちをもっていた。何かできること、繋がる先を探していたのである。

③広報:大阪府内市町村の男女共同参画課や、府内自治体の男女共同参画センターとのつながりが、普段から顔の見える関係としてある。そのほかに、「大阪府」を活用した府内市町村や関係機関への情報の周知方法として、社会福祉協議会、自治体のひとり親相談窓口、DV相談窓口、就労支援担当、学生へは教育委員会を通してなど、長年培ってきた繋がりを活かして、さまざまな人々にチラシが届くように配布した。

▶支援者も支援することで変化する その1

この取組みの結果として、支援者の側に変化があったことは大切である。

➀スタッフ:包括的な支援が必要になるだろうという認識から、この取組みでは幅広い領域から専門職性の高いスタッフを揃えている。2人1組で活動してもらい、また全体で定例の情報共有することが、多職種連携の取組みとなって結果的に専門職としてのスキルアップに繋がっている。

➁物品提供した団体・企業:協力を依頼するとき、どのような取組みをなぜ行うべきなのか、趣旨や問題となる現状、当事者女性たちのニーズを説明している。すると、そのようなことを初めて聞いた、マスメディアで言われていることがようやく理解できた、自社にもジェンダー平等に関して問題があるので話してほしいという人々が出てきた。「可哀そうな女性たちを助ける」というのではなく、支援する側で終わるのでもなく、自分事として課題を理解し、自分の仕事のありかたや職場のありかたの問い直しへと展開している。

③広報:訪れた女性たちへのアンケートによれば、この取組みを知ったきっかけの最多はチラシ(25%)である。今時、ウェブサイト・SNSやテレビなどが多そうだが決してそうではない。チラシの入手先は、自治体の役所、図書館、弁護士、子ども家庭センター、男女共同参画センター、母子生活支援施設、シェルター、フードバンクやシングルマザー支援団体、学校の就労支援担当の教員など、非常に多岐にわたっている。府内外の、普段から支援する多様な立場の人々が、チラシを渡すことによって、手から手へと繋がる支援のネットワークを担ってくれている。

そのほかにも、ドーン財団はメディアの信頼できる女性記者との繋がりをもっている。新聞取材や、また記者自身がこの取組みをきっかけに大きく一歩を踏み出してくれた出来事があるなど、支援する立場の人々も自らエンパワメントする機会になっているようである。

▶支援者も支援することで変化する その2

変化したのは、取組みに協力した府内外の人々だけではない。当のドーン財団のスタッフたち自身が、これまでの事業活動のなかで変化してきた。この取組みはそのたまものでもある。以下では、大きな出来事を3つ紹介したい。

➀米国NGO “Dress for Success” (以下「DFS」):仁科は、2009年に米国国務省のインターナショナル・ビジター・リーダーシッププログラムに参加する機会があった。その時に39団体等を訪問し、様々なソーシャルビジネス(社会的企業)を見学したうちの一つがコロラド州デンバーのDFSである(本部はNY。全米に約90、世界11カ国に支部)。特に印象的だったのは、支援者が話しをしながら一緒に洋服選びをすることで、女性たちが自信を持てるように声かけすることだった。また、衣服その他の物品提供や資金の支援を地域の企業・団体や個人から得ており、地域でサポートする体制も素晴らしかったとのことである。このDFSが今回の取組みのモデルになった。

➁内閣府のDV相談事業:ドーン財団は1994年の設立当初から府の女性相談事業を担当し続けている。しかし、大阪府の行財政改革によりドーン財団は自立化することになったため、2010年からは内閣府や他自治体の事業も受託するようになった。これらの多くの相談事業の経験が活かされている。特に、東日本大震災後の東北地方や熊本地震後の熊本県での相談事業など、平時の大阪府と異なる状況での経験は大きい。そのなかから、相談事業は一番来てほしい当事者女性にとって非常に敷居が高いこと、いかにそれを低くするかが肝要であることを学んでいる。たとえば「DV相談」と掲げると、自分はDVを受けていると思わない人は来ない。「私が悪い」と思っている人も来ない。周囲に知られるのが嫌な人も来ない。このような困難が実はたくさんあり、それらを一つ一つ解決してきた実績がこの取組みに活かされている。物品提供はそれらを必要とする人たちに確実に支援となるが、もしそのほかに悩みを抱えていても来やすく、必要なら他の専門職に繋ぐ体制がつくられている。

③シングルマザーの応援フェスタ:2015年に、全国女性会館協議会からの声かけにより、みずほフィナンシャルグループの助成を受けて「シングルマザーの応援フェスタ」を開催した。1日限りの企画で、交流会と相談会、みずほグループ社員から寄付された衣類などの提供である。企業との協働はこの時が最初である。支援する側にも当事者にも非常に満足度が高く、ドーン財団自主事業として行った2018年、2019年にも参加者が増加して手ごたえがあって協力企業も増えてきた。何とか続けたいが資金繰りに悩んでいたところ、2020年度末に上述の協議会から内閣府の交付金情報があり、わずかな準備期間のなかで大阪府とともに知事の専決事業としてこの取組みの実施を決め、内閣府に応募して採択された。

このように、長年、ドーン財団が女性支援のために奮闘し、チャレンジし、学び、力強く発展してきたことが、この取組みに結実している。

続くⅢでは、この取組み全体をエンパワメントの視点から考えます。)